ポートフォリオに載せられるものが、まだ1つもない。デザインを学び始めて、そう感じているなら、身構えなくて大丈夫です。最初の1点の候補になる制作物は、大きく4種類。そのうちどれから手をつけるといいかは、このあとすぐ紹介します。

ただ、選ぶより先に知っておきたいことがあります。実績になるかどうかを分けるのは、見た目の完成度ではありません。誰に向けて、何のために作り、どこまでを自分で判断したのかを説明できるかどうかです。この記事では、制作物の選び方から完成の目安、模写やテンプレート、AIを使ったものの扱い方まで順番に見ていきます。読み終えるころには、最初の1点をどれにするかと、作ったあとに何を書き添えればいいかが見えてくるはずです。

実績になる制作物とは

同じバナー1枚でも、実績になるものとならないものがあります。分かれ目は、うまさではなく「何を考えて作ったかが残っているかどうか」です。

テンプレートを差し替える、生成AIで背景を出す。見た目を整えるだけなら、数時間で形になります。それでも実績として出していいのか迷うのは、作る力が足りないからではありません。判断した跡が、残っていないからです。

私も最初の1枚は、テンプレートを差し替えて文字を打ち直しただけで、2時間ほどで形になりました。見た目は整っていたので、これで1点できたと思っていたんです。ただ後日、「これは誰に向けて作ったんですか」と聞かれて、何も答えられませんでした。作れていたのは画像であって、実績ではなかった。では何があれば実績になるのか。そのとき気づいたのが、次の2つです。

1つは、誰に向けて何のために作るかを、自分で決めた部分があること。もう1つは、どこまでを自分がやったのかを説明できることです。この2つを満たしていれば、練習で作ったものでも実績として扱えます。うまく作れたかどうかは関係ありません。

では、この2つを満たすには、最初に何を作ればいいのでしょうか。次に、1点目に選びやすい制作物を整理します。

最初の1点をどう選ぶか

最初に作れるのは、バナー、ロゴ、チラシ、Webサイトの4つです。1点目としてはバナーが取りかかりやすく、選ぶときは「区切りをつけられるか」を基準にします。

ここでいうチラシは、ポスターやメニュー表など紙の制作物全般を指します。WebサイトにはLP(ランディングページ。1ページで完結するサイトのことです)も含みます。

制作物別:1点目として区切りをつけやすいか
制作物目安区切りのつけやすさ
バナー1枚で完結し、サイズと目的を決めやすい
ロゴ1点で完結するが、意図を説明するための設定が必要
チラシ情報量は増えるが、紙面単位で完成を決めやすい
Webサイト・LPページ設計など工程が多く、完成まで時間がかかりやすい

表の◎○△は、難易度の順ではありません。1点目として区切りをつけやすいかどうかが基準です。Webサイトに△がついているのも、難しいからではなく工程が多いからです。

そのなかでバナーは、サイズも目的も最初から決まっていることが多く、自分で決める部分に集中できます。それでいて、限られた面積に何を大きく置くかという判断は必ず発生する。1枚で完結するので、説明を書くところまで含めても区切りがつきます。

作りたいものより、終わるものを選びましょう。1点目のゴールは、上手に作ることではなく最後まで通すことにあるからです。期間が空くほど立て直しにくくなりますが、一度でも書き出しまで終えれば、次に何を直したいかが見えてきます。

Webサイトのように工程が多いものは、学習と並行すると数週間かかります。

実在の依頼がまだない段階では、架空のクライアントを想定して作ります。設定を自分で作る過程が、そのまま「自分で決めた部分」になるからです。業種、商品、伝えたいこと、ターゲットの4つを先に書き出してから着手してください。ここで決めた内容は、のちほど作品に書き添える「目的」と「ターゲット」の欄にそのまま使えます。制作物には、架空の設定であることを明記しておきましょう。

作るものが決まっても、模写やテンプレート、AIを使っていいのか迷う人は多いはずです。次に、それぞれをどこまで使っていいのか整理します。

模写・テンプレート・AIの扱い方

3つとも、やることは同じです。何を参考にして、どこまでを自分で決めたのかを書き添える。ただし何を書けばいいかは、模写・テンプレート・AIで変わります。模写はそのまま載せるかどうかに注意が要り、テンプレートは使った範囲を書けば問題ありません。AIは書き添えたうえで、応募先の方針も見ておくと安心です。

模写は元の作品を見ながら似せて作ること、トレースはなぞって同じ形を作ることです。どちらも配置やバランスの判断を追体験できます。

ただし、元の作品には作った人の権利があります。

転職支援を行うマイナビクリエイターは、プロの作品をトレースした練習作やWeb上の画像素材を使った制作物を「すべて自分で作った」かのように載せるのはNGだと述べ、権利を持つのが誰か、自分がどの部分を担当したのかを明確に記載するよう勧めています。

つまり、模写やトレースを載せるなら参照元を書き添えることになります。これは権利への配慮であると同時に、どこを見て判断したかを見せる記録にもなる、というのが私の考えです。

テンプレートやAIで残すのは、使った素材の出所と、自分が加えた部分です。どこまでが用意されていたもので、どこからが自分の判断か。その境目が、見せたい部分だからです。

Canvaのテンプレートを土台にした場合も、背景を生成AIで作った場合も、使ってはいけないわけではありません。素材の出所と、自分が加えた部分を書いておけば大丈夫です。ただし生成AIへの姿勢は企業によって分かれるため、応募先の方針は確認しておくと安心です。

正直に書くと不利になるのでは、と感じるかもしれません。

ただ、マイナビクリエイターは、出典をきちんと記載して権利に配慮しているクリエイターは採用担当者から評価されると述べています。クリエイター以前に、社会人としての評価にあたる部分だとも書かれています。

ここからは私の解釈ですが、判断の過程が見えると、採用担当者は依頼したあとの進め方を想像できます。何を参考にして、どこを自分で決めたのか。書き添えることは、自分の仕事の進め方を見せる行為でもあります。

それぞれの書き方が整理できたら、次は完成後に制作物へ添える情報を見ていきます。

制作物に添える4つの情報

見た目が完璧でなくても、目的、ターゲット、担当範囲、制作時間の4つが書ければ、実績として見せられます。どこまで作れば完成かという線も、この4つで引けます。

目的は「新商品の認知を広げる」、ターゲットは「30代の働く女性」、担当範囲は「構成とデザイン。写真は無料素材を使用」、制作時間は「約4時間」。このくらいの粒度で構いません。

この4項目は、最初に挙げた2つの条件を確認するためのチェックリストです。目的とターゲットが「誰に向けて何のために作ったか」、担当範囲と制作時間が「どこまでを自分がやったか」にあたります。模写や素材の出典も、担当範囲にまとめて構いません。想いを長く書くより、この4つを残すほうが伝わります。

私も最初のうちは、書き出した画像だけを保存していました。3点目を作るころに見返したら、なぜこの色にしたのか自分でも思い出せず、説明を書こうとして手が止まったんです。それからは、完成した直後にこの4項目だけメモを残すようにしました。すると、あとから作品の説明を書くときに、色や配置を決めた理由がそのまま使える状態になりました。次の制作物の設定を決めるときも前回のメモを見返せるので、同じところで迷い直さずに済みます。1点ずつ判断が積み上がっていく感覚があるので、この5分は今も続けています。

まず1点を完成させることが先で、点数はそのあと自然に増えていきます。転職活動で見せる場面での目安としては、マイナビクリエイターが1ページにつき1〜2作品、全体で10〜20作品程度としていますが、それは1点目が手元にできてから考えれば十分です。

4つの情報がそろったら、次は後から見返せる形で制作物を残しておきましょう。

完成後のデータ整理

完成した時点でひと手間かけておくと、そのままポートフォリオに移せます。

入れるのは、編集できる完成データ、書き出した画像、前章の4項目を書いたテキスト、参考にした資料のURLです。フォルダ名を「日付_制作物の種類_案件名」にしておくと、増えたときに並び順で探せます。日付は西暦下2桁、月2桁、日2桁の6桁で。2026年8月3日のバナーなら「260803_バナー_架空カフェ新商品」です。

ラフ(清書する前の下書きです)や初期案のスクリーンショットを1枚だけ残してください。完成形だけでは、どこを判断して変えたのかが伝わりません。後から理由を書くときの手がかりになります。

1点ごとに整理しておけば、ポートフォリオを作る段階でやるのは並べ替えだけです。ここを飛ばすと、データを探すところからやり直しになります。

整理の仕方まで決めても、いざ作り始めようとすると手が止まることがあります。最後に、つまずきやすいポイントを整理します。

制作中につまずいたとき

手が止まるのは、たいていこの3つのどれかです。

人に見せて笑われないかと考えると、手直しが終わりません。そんなときは、4項目のメモを見直してください。答えられない項目があれば、そこだけ決め直せば出せる状態になります。4つとも埋まっているなら、実績と呼べる2つの条件は満たせています。

それでもまだ出せないと感じるなら、完成の基準があいまいなのではなく、他人に見せることへの怖さが残っているだけです。基準の問題と、見せる怖さは別のものです。切り分ければ、直すところがないのに手直しを続ける状態からは抜けられます。

作りながら「もっと情報を入れたほうがいいのでは」と要素が増えていきます。これは、最初に決めた目的とターゲットがあいまいなまま進めていると起きやすい迷いです。迷ったら、最初に書いた「誰に向けて」「何のために」に戻り、足そうとしている要素ひとつずつに「これはターゲットに届くために必要か」とだけ問いかけます。答えが出ないものは、入れずに進めて構いません。

同じ画面を1時間見続けていると、良いのか悪いのかが自分でも分からなくなってきます。何を直せば目的に近づくのかが、見えなくなっている状態です。そんなときは、一度閉じて翌日に開き直すだけでも視点は戻ります。そのうえで「ターゲットの人がこれを3秒見て、何が伝わるか」を声に出して答えてみてください。答えに詰まった箇所は、伝わり方がまだ設計できていない場所です。そこが、直すべきところになります。

この3つは、作り始めた人だけが通る場所です。そこまで進んでいるなら、判断の跡はもう残っています。あとは言葉にして書き添えるだけです。

まず1点を完成させる

最初の1点に選べるのは、バナー、ロゴ、チラシ、Webサイトの4つ。なかでもバナーは、サイズも目的も先に決まっているぶん、自分で判断する部分に集中しやすくなります。

そして1点目は、思ったようには仕上がらないかもしれません。それでも構いません。実績と呼べるかどうかを分けるのは見た目の完成度ではなく、誰に向けて何のために作り、どこまでを自分で判断したのかを説明できるかどうかです。

うまく作れるようになるまで待つ必要はありません。自分で選び、決めた理由が残っていれば、1点目でも実績になります。

▶ 今日やるのは、4つのうちどれを作るかを決めて、「誰に向けて」「何のために」をメモに書き出すところまで。それさえ決まっていれば、今週中に手を動かし始められます。

次に読む

▶ ポートフォリオサイトの作り方|未経験者が最初に用意するもの

▶ バナーデザインの基本|文字と余白の考え方

参考文献

・マイナビクリエイター「【未経験からのクリエイター就職・転職】ポートフォリオの作り方と注意点」

https://mynavi-creator.jp/knowhow/article/how-to-make-portfolio-for-inexperienced

・マイナビクリエイター「ポートフォリオ作成で注意すべき著作権と守秘義務の基礎知識」

https://mynavi-creator.jp/knowhow/article/copyright-and-confidentiality-of-portfolio